スプリンターが考える長距離ランナーのドリル
- 秀志 池上
- 2023年1月20日
- 読了時間: 13分
こんにちは!
先日お届けさせて頂いた「今週のライオンズと低強度走」はもうお読みになられましたか?
まだお読みになられていない方は是非こちらをクリックして是非お読みください。
この記事を執筆した後で、偶然にも為末大さんの「スプリンターが考える長距離ランナーの為のドリル」という動画をユーチューブで見つけたのですが、その動画内で私が10年以上ずっと思っていたことが語られていました。
因みに、為末大さんは世界選手権で二回の400mハードル銅メダル獲得を初め、様々な世界大会に出場されている日本の400mハードルの第一人者です。
その為未さんが短距離も長距離も走りの基本は同じであることを前置きしたうえで、短距離と長距離の走りの違いとして、短距離は反発をあおるような動きを入れて地面からの反発を大きくしていくのに対して、長距離ではその動作は疲れやすくなるので無い方が良く、それよりも重心を前に前に移動しながら、ブレーキをかけないことの方が重要となるとおっしゃっていました。
ちなみに、為末さんは長距離走やったことないので、素人ではありますがと前置きされた上での回答です。
これ私は絶対為末さん正しいと思うんです。
特に私が大学生になる2012年くらいから、急激にフォアフット走法が着目されるようになり、それに伴い地面からの反発を利用して走るとか、足を体の前に出さないとか色々言われるようになりました。
ポイントは地面からの反発をあおるような考え方を取り入れようとするランニング教室などが出てきたということです。
ただ、反発をあおるような動きを入れるのと地面からの反発を殺さないようにするのは違うんです。物理の法則として、接地の瞬間に地面からの反発があるのは当然です。ポイントはその反発を殺さないように、無駄な力を入れたり、ブレーキをかけたりしない走りを良しと考えるか、その反発をあおるような動きを入れる走りを良しとするかです。
私は10年以上前から前者を良しと考えてきました。理由は単純で、1つ目は反発をあおるような動きを入れると著しく疲れてしまうこと、2つ目はそもそも長距離走、マラソンでの走行速度は最高速度(100m走のタイム)と比べて著しく遅いので、反発をあおる必要がないことの二点です。
で、更に重要なことですが、少なくとも私は反発をあおるような動きや意識を持って走ったら5000mすらもたないんです。地面を蹴るとか、地面からの反発を得るとか、接地の瞬間に胸を出すとか、そういう余計な動きを入れたら遅くなるんです。疲れるからです。もたないからです。
大迫さんとか高岡さんでさえも、トラックからマラソンに移行するにあたって走り方は変わっています。ご本人たちがどういう意識で走っていたか直接聞いたことはないので、分かりませんが、やはり40キロ走とかを入れていく中で、もたないから自然と反発をあおるような動きがなくなっていったのではないでしょうか。
ちなみに、私の周りに1人だけ反発こそが全てみたいな人でマラソン走り切った人がいます。それが藤原新さんです。
ただ、藤原さんは一番調子が良かった時は「その場で足踏みしている感じだった」とおっしゃっています。つまり、藤原さんの場合は反発をあおって前に進むというよりは、とにかくアキレス腱反射を使って足が地面から離れること、縄跳びのようなイメージでとにかく足が地面から離れることだけを意識しておられたのだと思います。
1キロ3分ペースで走っていれば、勢いがつきますからあとはその勢いで勝手に体が前に進んでいくというイメージです。その代わりですが、藤原さんは「1キロ3分半の延長にレースの動きはない」とおっしゃっていました。おそらく、1キロ3分半ペースでは勢いが小さいので、同じ走り方が出来ないのだと思います。
異常にクロカンに弱かったのも、一定の勢いを使えないからでしょう。
また、これは心肺機能の強さもあるのですが、「1キロ3分15秒も1キロ3分ペースもきつさは変わらない」とおっしゃっていました。これもやはり、勢いの問題でしょう。心肺が強いので、勢いがあって必要なエネルギー量が多いのと、勢いがなくて必要なエネルギー量が少ないのとではきつさがあまり変わらなかったのだと思います。
また、藤原さんが地面からの反発やアキレス腱反射を上手く使うという動作が短距離のように地面からの反発をあおって前への推進力に変えるのとは実際にやっていることと違うということの証拠は、藤原さんのピッチが異常に速いことです。
藤原さんのピッチは1分間に210から220くらいあります。これは私が知る限り、マラソン史上谷口浩美さんと並んでツートップです。あとはほぼ例外なく、180から200です。ですから、藤原さんは地面からの反発をあおることで大きなストライドを生み出していたのではなく、省エネで走るための一つの方法論としてアキレス腱反射を利用して、とりあえず足が地面から離れる状態を作って、あとは自分が持っている運動エネルギー=勢いを利用して、走り続けるという方法を編み出されたのだと思います。
最近、電話で少しお話させて頂いた程度なので分かりませんが、この前お話しさせて頂いた時はスズキの選手にもまだその走り方は伝授しきれていないとのことでした。如何にトップランナーと言えども、藤原さんと比べたら大半の選手は並みの一流ですから難しいじゃないかと思いますけど、どうなんでしょうね。
それは私には分からない世界です。
いずれにしても、そのくらい例外的であるということと、もう一つは単純に私がもたないのであれば、一体何人の日本人が出来るのかという話です。何人で言えば、割といるかもしれないですが、何%で言えばせいぜい1%程度じゃないですか。女子は新谷さんでもそういう走りはしていませんし、田中希実選手も10000m走る時はどちらかと言えば技巧派の走りです。
その辺りは二十歳前後とまだ若い割には技術的にも卓越したものを持っていると思います。
ちなみに、地面からの反発をあおるような動きを推奨する人々は私が観察した限り次の3種類に分類されます。
1. 自分は走らない整体師や治療家、生体工学の研究者などの体の専門家
体には詳しいが自分は走らないからそれがいかに困難であるかを知らない
2. 自身もランナーで反発をあおるような動きを提唱するが自身も最後までもっていない
一番誠実なタイプだが、色々残念。
3.1500までを専門にやっていた選手
1500mも800mも短距離ほどではないけれど、距離が短距離に近いのである程度は必要になるのかもしれない。また、長距離ランナーも反発をあおるような動きを取り入れる例外があります。それがラストスパートです。ラストスパートだけは疲れても良いから速く走れる動きが欲しいのです。
よく指導者が選手に「切り替えろ。切り替えろ」と声をかけているシーンがありますが、これは動きを切り替えろということです。一定のリズムで、なるべく疲れずに速く走れる走りから、疲れても良いから速く走れる動きに切り替えろということです。
ラスト1000mからペースが上がるような展開でも必ずラスト400mや300m、200mでもう一回切り替わりますが、それはラスト1000mだと長距離的な動きが主になるのに対し、ラスト400mを切ってからは短距離的な動きが主となるからです。
そもそも、ラスト400mがそのレースに占める距離の割合を考えてみてください。10000mでは25分の1にしか当たらないのに対し、800mなら半分、1500mなら4分の3以上を占めます。中距離ランナーが短距離と長距離のハイブリッドになるのは当然です。
ちなみに、私は反発をあおるような動きを極限までおさえて、なるべく疲れにくく速く走る走り方を追求しすぎた結果、反発をあおるような動きが全くできなくなってしまい、ラストスパートの切り替わらなさには定評があります。勝ったレースは全て終盤にゆさぶりをかけて振り落としています。最後までいったら、大体2番か3番です。
一回だけ、ラスト100mで7人抜かれしたことがあるのですが、陸上人生でラスト100mだけで7人に抜かれたのは自分しか見たことがないです。YouTubeに動画あがってたんですけど、もう消えてしまったようです。
私の場合は、洛南高校に入学した時にどうやったら試合で使ってもらえるかを考えた結果、自分が生き残るためにそちらに振り切ったんです。15歳なりに駅伝で使ってもらうための優先順位を色々と考えてみました。もちろん、5000mのタイムが速いこと、1500mや10000mのタイムが速いことは条件の上位に来ます。
ただ、1500mでは先輩方には勝てませんでしたし、10000mは走る機会がありません。5000mはというと強い先輩方がいすぎてそれだけだと決め手にかけるんです。決め手にかける場合は、1500mが強い先輩が選ばれるに決まっています。
だから、5000mのタイムともうあと何個か強みが欲しかったんですけど、ある日ふと思ったのが、「監督の立場になったら特徴のある選手と特徴のない選手とどちらが使いやすいんだろう」と思ったんです。
15歳の私が出した答えは、何事もそつなくこなせる選手よりも、こなせることとこなせないことがハッキリしている特徴のある選手の方が使いやすいということでした。
何故なら、その特徴を持っている選手をその特徴が活かせる区間に配置して、それ以外の区間に強い選手を配置することが出来るからです。
これが実際に起こった話なんです。高校二年生の京都府高校駅伝、私は遅かったくせに本来ならば3番手の選手が配置されることが多い4区に配置されました。4区は8.0875kmと3番目に長い区間で、更に後半に入って前後の間隔があいてくるので一人でもペースを作って淡々とリズムを刻んでいくことが求められます。更に、京都府高校駅伝の4区はアップダウンが激しいコースで、タイムは出ません。
ライバル校はそこに5000m14分30秒台で近畿インターハイ出場者や3000m障害の近畿インターハイのチャンピオンを配置してきました。一方の洛南高校はインターハイ路線は補欠の私です。インターハイに出れたとか出れなかったとか以前に、学校内でメンバーには入れていません。
ただ、私には「どんな展開でも長い距離を落ち着いて、走り切ることが出来る」という特徴がありました。本来ならば、力のない私を4区に配置することで、6区に二番手の選手をもってくることが可能になりました。それが現在NTNでご活躍されている小山陽平さんです。
各校14分30秒台の準エースを配置したのに対し、洛南高校は5000m15分台で補欠の私、結果はやる前から分かっていました。向こうは4区で逆転してなおかつ20秒以上タイム差をつけなければ6区で逆転されるのは見えていました。
一方の洛南高校は20秒リードでもらった貯金さえ崩さずに後続につなげば良いのです。精神的な余裕が全然違います。また、今も昔も弱いくせにいっちょ前に強気の私は「持ちタイムでは負けてるが、お前たちとはやってきたことが違うんだ」と謎の自信と闘志をたぎらせていました。
私が区間賞を獲得し、本来ならば強い選手を配置出来ない6区に小山さんを配置できたことで、小山さんが大幅に区間記録を更新する区間賞、また洛南高校初の京都府高校駅伝全区間区間賞での完全優勝でした。
当時の監督がどう考えていたかは分かりません。ただ、特徴のない選手よりも特徴がある選手の方が使いやすいと私は考えたので、もう走り方をそちらに振り切ってしまったんです。それがいまだになかなか補正されないので、私の走りはちょっと極端かなとは思います。
話を為末さんに戻すと、為末さんはなるべく力を使わずに走り続ける走り方を身につける方法として3つの動きづくり(ドリル)を提唱されています。この3つの動きはまた後で実際にご覧頂きたいのですが、その前に私なりに解説させて頂きます。
1つ目の動きは、為末さんは動きづくりとして提唱されていますが、私から言わせれば低強度走は全てこの動きであるべきです。
低強度走こそがベストな動きづくりなんです。だから、低強度走もおろそかにしてはいけないし、低強度走でも量を増やせば確かな技術が身につきます。
二つ目の動きはもも上げで代用しても構いません。最近は、もも上げではなくもも下げだと言われていますが、膝を上げて体の真下にすとんと落とした時に、自然と地面からの反発で体が前に進むという感覚を掴むのであればもも下げです。
一方で、脚が後ろに流れて前に返ってこないということがないように、前さばきの動きを体に覚えさせるのであればもも上げです。膝を斜め45度前方上方に引き上げる意識を持つことが大切です。
三つ目の動きは私がいつもリズム良くと言っている動作のことです。リズム良くとは上半身と下半身のタイミングが合って連動している状態です。繰り返しになりますが、何も考えなくても物理の法則として接地した瞬間に地面からの反発は得られますし、勢いもついています。
それらを殺さないことが重要です。それらを殺さずに推進力に変えるにはタイミングが重要です。そのタイミングを掴むのが3つ目の動きづくりですが、これも私に言わせれば低強度走で確認できる動作です。ですから、低強度走でこの動きを身につけることが重要です。
また、二つ目の動きも膝からリードして脚を前方に出していく意識を持てば、2つ目の動きも低強度走で代用できます。後ろの脚を前に持ってくるときに膝からリードして、前の膝を越えていくイメージを持つことです。足は常に膝よりも後ろになければいけません。
言い換えると、低強度走では為末さんが解説している3つの動きを意識しながら力を入れなくても楽に最も速く走れるペースで行うべきなのです。中強度以上になれば、一定程度疲れを感じるとは思いますが、低強度走の延長です。高強度走は明らかに疲れると思いますが、体の使い方的には更に低強度走から中強度走に延長させたさらに、その延長です。
低強度走では疲れを感じずに、1番目から3番目の動きを意識していたら勝手に速く走れるペースで走れば良いですし、かえってそちらの方が楽なんです。遅く走ろうと思うとかえってブレーキをかける必要があったりとか、重心を前ではなく後ろに残す必要が出てきたりするので、かえって疲れるんです。
低強度走のことを考える時、私はいつもパレート効率が頭に浮かびます。パレート効率とは「社会の構成員の少なくとも誰か一人の効用を下げずには価格を上げることも下げることも出来ない価格」のことで、別名パレート均衡とも呼ばれます。パレートとはこの理論を提唱し、数学的に証明したイタリアの経済学者ジルフレッド・パレートのことです。
同様に、低強度走も「もはや疲労度を上げずにはペースを落とすことも上げることも出来ないペース」に収束していくはずです。これは私が提唱しているので池上効率もしくは池上均衡と呼ぶことにしましょう。
パレート効率が実現できる価格がその時の経済状況や世界情勢によってやや上下するように、池上効率が実現できるペースもその日の疲労度や体の状態によってやや上下します。
例えば、私は先ほど18キロの低強度走から帰ってきましたが、平均ペースは1キロ4分09秒でした。ところが、40キロ走の次の日の15キロ低強度走では1キロ平均4分20秒でした。また、逆に今は練習の密度が高く、高強度の練習がそれなりに詰まっていますが、低強度の日を3日、4日と連続で行うと3日目、4日目の低強度走は平均1キロ4分ちょうどくらいのペースになります。
このように池上効率が実現されるペースはやや上下します。ここでも、具体的な練習内容(ペース)は池上効率という目的を実現させるための手段に過ぎない、すなわち「練習においては具体的な練習内容は目的を達するための手段に過ぎず、常に目的は手段に優先されるべきである」という練習に一般的な原則が適用される訳です。
そんな訳で気になる為末さんの動きづくりは下の動画よりご覧ください。絶対に参考になります。
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