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走り方と文化

 私が大学生の頃、京都教育大学の卒業生で筑波大学院の方が来られて女の子走りの話になりました。あなたは女の子走りと言われてピンっと来るでしょうか?

 女の子走りというのはいうまでもなく、俗語で厳密な定義がある訳ではありませんが、腕を横に振り、内また気味に走るあの走り方です。確かに、あの走り方は男性にはほとんど見られません。


 あなたも考えてみてください。何故、女の子走りは女の子に特有のものなのでしょうか?


 せっかくなので、実例もお出ししましょう。これは日本選手権の女子400mです。


 正面からの角度の映像が一瞬しかないのですが、手や肘の位置が明らかに体から離れているのが見てとれます。これが男子の400mだとこうはなりません。参考までに貼らせて頂きます。


 明らかに肘や手が体のすれすれを通っています。ちなみに、これは日本のトップ選手の走りなので、違いがそこまで明確ではないかもしれませんが、町レベルや都道府県レベルではもっと女の子走りが明確になります。


 さて、そろそろ女の子走りの理由、思いつきましたか?

 その大学院の先輩は女性の方が骨盤が広いからその骨盤の回転とのバランスを取るために腕を広くとって振る(回転させる)必要があるとのことでした。これは実際に事実で、理由の一つだと思います。ですが、女の子走りはそれだけでは説明できません。

 何故ならば、海外の陸上選手はそこまで女の子走りが多くないからです。確かに、海外の女子選手も骨盤は広いので男性と同じ走り方にはなりません。しかしながら、女の子走りというほどでもないのです。少なくとも、私の個人的見聞では、ドイツでもケニアでも女の子走りはほとんど見かけませんでした。


 では、私の答えは何か?


 それは文化だというものです。

 私がこう考えるのには理由があります。おそらく、スポーツの中で最も古くから多くの映像記録が残っているのは野球です。この野球選手のフォームを見ていると投手も打者もその時代の流行みたいなのがあるんです。


 もっと言えば、日米で打ち方も投げ方も違います。骨格の差もあると思いますが、一言でアメリカ人とか日本人と言っても骨格は様々ですから、それならば日米問わず多様化されるはずなのです。それにも関わらず、その国やその時代の共通点のようなものがあるのは何故か?


 それは人間は人のやっているのを見て無意識のうちに真似をする生き物だからです。そもそも女の子走りの特徴である内股は走る時だけではなく、日常生活にも共通して言えることです。日本の女性は内またであることが美しいとされる、もしくはガニ股であるのは恥ずかしいという文化圏に生きています。


 別にこれも誰が決めたという訳ではありません。誰が決めたという訳ではありませんが、無意識のうちにそうなっています。逆に男性で内またの人がいたら、男らしくありません。なんだかなよなよして見えてしまいます。更に言えば、おっちゃんになるほど膝が外に開いてくる傾向があるような気がします。


 私もたまに友人と歩いている時に、一発芸「おっちゃん歩き」を披露することがありますが、まあまあ共感してもらえます。


 ところが、ドイツやケニア、ニュージーランド、オーストラリア、オーストリアなどに行くと女性だから内またということも男性だからガニ股だということもありませんでした。もっと言えば、女性だからオシャレということもなく、短いジーパンにTシャツ一枚でサンダルみたいな人がたくさんいました。


 海外の人は綺麗だという人が多いですが、それは多分映画とかセレブのインスタグラムばかりみているからであって、着飾っている、オシャレをしているという意味では日本人女性の方がかわいらしいと思います。好みはとりあえずおいておいて、着飾っているとかおしゃれをしているという点ではですよ。


 多分でも、日本人女性は着飾っているとかオシャレをしているという意識はあまりなくて、恥ずかしくないようにそうやっているケースがほとんどだと思います。つまり、普通から外れたくないんですね。本来ならば、ジャージで短髪でノーメイクの女性がもっといても良いはずですが、そうならないのは無意識のうちに「普通でいたい」という気持ちが働いているのだと思います。


 人間だけではありません。哺乳類は普通でいたいと思っています。人間でも異質な人間を排除しようとする集団心理が働きがちですが、鳥や山羊などの群居動物でもそうです。ある群れの中で一羽だけペンキで違うしるしをつけたら、その鳥だけ瞬く間にいじめられて死んでしまったという実験もあります。

 ちなみに、私と妹はすでにスマホが普及した時代に二人ともジャージにガラケー、私は坊主に妹は短髪で駅にいたら、「あの二人めっちゃ強ない?」と噂されてしまいました。


 さて、ここであなたに質問です。


 ではドイツのように女性もあまり着飾らずに、短パンにTシャツ、サンダルでブラジャー普通に見えているか、ブラジャーしていない人もしょっちゅういるようなスタイルと日本女性のようにこぎれいに可愛くしているのとどちらの方が正しいのでしょうか?


 どちらが正しいと聞かれて答えられますか?


 これは別にどちらが正しいということはないですよね?


 文化や個人の趣向の問題なので、どちらかが正しくてどちらかが間違っているということではありません。ところが、スポーツでは所詮文化的な違いに過ぎないのに、最先端のものが正しいと考える傾向にあるのです。


 私よりも年配の方の方が感じておられると思いますが、日本の選手の走り方もこの10年くらいで走り方が変わってきました。何度も書くようですが、どの時代においても厳密に言えばその人の走り方はその人だけのものです。


 ただ、なんとなくテンプレートのようなものはあります。これも見て頂いたほうが分かりやすいので、映像で見て頂きましょう。


 こちらは1983年の福岡国際マラソンです。全体的に腕の位置が低く、足の位置も低く、小刻みにリズムよく走っている選手が多いように感じます。


 一方で、最後のびわ湖毎日マラソンはこちらです。


 あくまでも傾向ですが、腕の位置が高く、つま先から接地している選手が多いです。蹴り上げも強く動きが大きいです。更に言えば、最近はインスタグラムの影響で、インスタ映えする動画を目にする傾向が多くなりました。インスタ映えする動画となると、腕の位置は高く、つま先から接地している映像が多くなります。

 更に言えば、インスタの場合スロー再生のものが多いからなおさら、地面を強く蹴っているように見えてしまいます。

 確かに、今の時代の方がレベルは高いです。ただ、1983年の時点でもマラソンで2時間10分を切っている選手は結構いました。今の方が層は厚くなっていますが、必ずしも昔の選手の方がレベルが低い訳ではありません。実際に、10000mの記録を比べても今とあまり変わりません。

 特に市民ランナーの方の場合は、ほぼ例外なく1983年のトップランナーよりもレベルは低い訳ですから、そうなると時代が進んで、走り方が変わってくる傾向にあっても一歩立ち止まって考える必要はなおさらあります。その走り方が自分に本当に合っているのかどうかよく考えないと、最近のトップランナーはこういう走りをしているから自分もそれを意識するとなると間違った方向に進む可能性もあります。

 私が言っているのは真似をしてはいけないということではありません。良いところはどんどん取り入れれば良いのです。もっと言えば、どうせ真似をすることは出来ないので、他の人の走りを見て、自分に使えそうな要素を抜き出して使うことが重要だと思います。

 ただ、その時にあまり「みんながこうしているから」とか「最近はこういう走りが多いから」「最近はこういう走りが流行だから」というものの見方をしない方が良いです。

 「昔は踵接地が正しかったけど、今はつま先接地が正しい」みたいなことを平気で言う人がいますが、そんな訳がないでしょう。正しいものはいつの時代も正しく、間違っているものはいつの時代も間違っています。

 ただ、別に正しいかどうかとは関係がなく、はやりすたりというものはあります。平安時代は十二単が流行っていましたし、鎌倉時代から江戸時代くらいまでは武士の服が流行っていましたし、明治、昭和、平成と常に流行は変わってきました。どれが正しいとかいうことではありません。その時代の流行があるというだけのことです。

 走りを考えるにあたっても、それが文化で済まされるものなのか、それとも本当に考える必要がある部分なのか、よく考えるとまた違った見方が出来るようになっていきます。

 さて、最後に『ランナーズバイブル』をまだ読まれていない方におススメです。拙著『ランナーズバイブル』では今回のような走り方やトレーニング、故障のマネジメント、心理学などなどランニングに関するあれこれについてPDF580ページ分(ハリーポッター三冊分、幻冬舎による試算)でぎっしりと書き連ねています。


 まだ読まれていない方は是非こちらをクリックして、目次をご確認ください。


コメント


筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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